日本漢詩詩人の鮟鱇様は拙者の漢詩の読み下ろしを書いて頂いて、心から感謝いたします。
家 信
細雨微寒秋意濃,寂寥風景総相同。
万般心事難為句,且報東瀛楓葉紅。
細(さい)雨(う) 微(び)寒(かん) 秋(しゅう)意(い) 濃(こ)く,
寂寥(せきりょう)たる風景(ふうけい) 総(すべ)て 相(あい)い同じ(おな)。
万般(ばんぱん) 心事(しんじ) 句(く)に為(な)り難(がた)く
且(ただ)に報(ほう)ぜん 東瀛(とうえい)の楓(ほう)葉(よう)の紅(あか)きを。
訳: 故郷への手紙
雨脚細く肌寒く秋めいて
さびしい風景は故郷と同じだ
いろいろ書きたいが句にするのは難しいが
とりあえず日本のもみじも紅いとだけ書こう
偶 成
未見春風成気候,新芽已嫩柳枝頭。
郷情万里難為夢,酔裏更添別様愁。
未(いま)だ春風(しゅんぷう)の気候(きこう)と成(な)るを見(み)ずも,
新芽(しんめ)已(すで)でに嫩(ふたば)となり 柳(やなぎ)の枝頭(しとう)にあり。
郷(きょう)情(じょう)万里(ばんり) 夢(ゆめ)為(な)り難(がた)く,
酔(すい)裏(り) 更(さら)に添(そ)う別様(べつよう)の愁(うれ)い。
訳: 偶 作
まだ春風は吹かないが
新芽はすでに柳の枝先に吹いている
はるかに郷里を思う夢はかなわず
酔えばさらに別の愁いを添える
(此詩得蒙日本詩人海山人先生次韻,答謝如下)
この詩は日本の詩人海山人先生が拙作と同韻を踏んで応酬してくれたものに答え、
以下のとおり感謝したものである:
次韻次韻『偶成』
十載漂泊作遠遊,如煙往事上心頭。
陰陰風冷天将雪,寂寂更深人自愁。
『偶成』の次(じ)韻(いん)に次(じ)韻(いん)す
十載(じゅっさい)の漂泊(ひょうはく) 遠遊(えんゆう)を作(な)し,
煙(けむり)の如く往事(おうじ)は 心頭(しんとう)に上(のぼ)る。
陰陰(いんいん)として風は冷(つめ)たく 天 将(まさ)に雪(ゆき)ふらんとし,
寂寂(せきせき)たる更(こう)深(しん) 人(ひと) 自(おの)ずから愁(うれ)う。
訳:
十年の漂泊 遠遊,
煙の如く往事は心頭にうかぶ。
薄暗く風は冷たく雪模様,
ものさびしい夜更けに人は自ずから愁う。
又,偶成
芳草漸生雲淡淡,寒窓半掩日遅遅。
斟茶待客無多語,笑問花期是几時。
芳(ほう)草(そう) 漸(ようや)く生じて雲(くも) 淡淡(たんたん),
寒(かん)窓(そう) 半(なか)ば掩(おお)って 日は遅遅(ちち)たり。
待客(たいきゃく)に茶(ちゃ)を斟(く)んで多語(たご)すること無(な)くも,
笑(わら)って問(と)う 花期(かき)は是(こ)れ幾時(いくとき)かと。
訳:
花の草もようやく生えて雲淡く,
カーテンで半ば掩われた寒窓に日は春めいてゆっくりと進む。
待つ客に茶を斟(く)んで多くを語ることはないが
にこやかに花見はいつごろですかねと聞いてみる。
(此詩得蒙日本詩人鮟鱇先生次韻,本人唱和如下)
この詩は日本の詩人海山人先生が拙作と同韻を踏んで応酬してくれたものに答え、
以下のとおり唱和したものである:
星光崔燦浮雲低,夜色朦朧入夢遅。
忽憶家園春気晩,寒梅応是著花時。
星光(せいこう) 崔燦(さいりん)として浮雲(ふうん) 低(ひく)く,
夜色(やしょく) 朦朧(もうろう)として夢(ゆめ)に入(はい)ること遅(おそ)し。
忽(こつ)として憶(おも)う 家(か)園(えん) 春(しゅん)気(き)の晩(ばん),
寒梅(かんばい) 応(まさ)に是(こ)れ 花(はな)を著(つ)けるの時(とき)を。
訳:
星の光はきらきらと浮雲低く,
夜の気配 朦朧としてなかなか眠れない。
ふと思うは故郷の庭の春気の晩,
寒梅まさにこれ花を著ける時。
(此詩得蒙日本詩人鮟鱇先生次韻,本人唱和如下)
この詩は日本の詩人海山人先生が拙作と同韻を踏んで応酬してくれたものに答え、
以下のとおり唱和したものである:
初春寂寞少人跡,細雨纒綿来客遅。
閑品新茶読旧史,陶然自楽不知時。
初春(しょしゅん) 寂寞(せきばく)として人跡(じんせき)少(すく)なく,
細(さい)雨(う) 纒(てん)綿(めん)として来客(らいきゃく)遅(おそ)し。
閑品(かんぴん) 新茶(しんちゃ) 旧史(きゅうし)を読(よ)み,
陶然(とうぜん)として自(みずか)ら楽(たの)しみ時(とき)を知(し)らず。
訳:
初春の初めはものさびしく人影も少なく
雨しとしとと客が来るのも遅い。
閑に過ごして新茶を飲み 旧史を読み
悠然とひとり楽しんで時の過ぎ行くを知らず。
(此詩得蒙日本詩人鮟鱇先生次韻,本人唱和如下)
この詩は日本の詩人海山人先生が拙作と同韻を踏んで応酬してくれたものに答え、
以下のとおり唱和したものである:
亭亭野草連天碧,噪噪昏鴉暮日遅。
浪跡扶桑十数載,雄心已負少年時。
亭亭(ていてい)たる野草(やそう) 天(てん)の碧(あお)きに連(つら)なり,
噪噪(そうそう)たる昏(こん)鴉(あ) 暮(ぼ)日(じつ) 遅(おそ)し。
浪(ろう)跡(せき) 扶桑(ふそう)に十(じゅう)数(すう)載(さい),
雄(ゆう)心(しん)已(す)でに少年(しょうねん)の時(とき)に負(そむ)く。
訳:
こんもりと繁る野草は天の碧きに連なり
さわがしい日暮れのカラス 日は長し
波の跡を記して日本に来て十数年
少年時代の雄雄しい心はすでにない
(和丹仙,鮟鱇先生用花,霞韻)
丹仙,鮟鱇先生に和し、花,霞韻を用いる
四月春風遍天涯,東贏処処見櫻花。
不随万衆尋芳去,独立橋頭看晩霞。
4月 春風(しゅんぷう) 天涯(てんがい)に遍(あまね)く,
東贏(とうえい) 処処(しょしょ)に櫻(おう)花(か)見(み)ゆ。
万(まん)衆(しゅう)の芳(ほう)を尋(たず)ねて去(い)くに随(したが)わず,
独(ひと)り橋頭(きょうとう)に立(た)ちて晩(ばん)霞(か)を看(み)る。
訳:
4月 春風 天涯にあまねく吹いて
日本のそこここに桜咲く。
みんなは花見に出かけたが
わたしは(仕事があるので)ひとり橋のたもとで夕焼けを見る。
店内偶成①
柔弱柳枝上窓台,櫻花落盡百花開。
倦中送客沈沈夜,風暖雲低帯雨来。
柔弱(にゅうじゃく)たる柳(りゅう)枝(し) 窓(そう)台(だい)に上り
櫻(おう)花(か)落(お)ち盡(つ)くして百(ひゃく)花(か)開(ひら)く。
倦中(けんちゅう) 客(きゃく)を送(おく)る 沈沈(ちんちん)たる夜(よる),
風(かぜ)暖(あたた)かく雲(くも)低(ひく)く雨(あめ)を帯(おび)て来(き)たる。
訳:
柔らかな柳の枝は窓の枠にさしかかり
桜はみんな散って百花咲く
倦み疲れて客を送る沈沈たる夜
風はなま暖かく雲は低く雨の気配を帯びてやって来る
店内偶成②
花落無声柳色残,初秋天気半陰寒。
星光数点薄雲外,店内灯明客欲眠。
花(はな)落(お)ち声(こえ)無(な)く柳色(りゅうしょく)残(そこな)われ,
初秋(しょしゅう)の天気(てんき) 半陰(はんいん)の寒(かん)。
星(せい)光(こう)数(すう)点(てん) 薄(ぼ)雲(うん)の外(そと),
店内(てんない) 灯(ひ)明(あかる)くも客(きゃく) 眠(ねむ)らんとす。
訳:
花は音も無くおちて柳の色もそこなわれ,
初秋の天気は、半ば曇って寒い。
星の光 数点 薄雲の外
店内 灯は明くも客は眠たそう。
中 秋
春去秋来盡惘然,促織声里又一年。
月出雲海星空外,人在天涯酔夢間。
春(はる)去(さ)り秋(あき)来(きた)って盡(ことごと)く惘(もう)然(ぜん)として,
促(そく)織(しょく)の声里(せいり)に又(ま)た一年(いちねん)。
月(つき) 雲海(うんかい)を出(い)でて星空(せいくう)の外(そと),
人(ひと)は天涯(てんがい)に在(あ)って酔夢(すいむ)の間(かん)。
訳:
春去り秋来って盡く惘然として,
コオロギの声を聞いて又た一年。
月 雲海を出でて星空の外,
人は天涯に在って酔夢の間。
大宮氷川神社
千年参道感幽深,四季平和気象新。
古木森森能蔽日,軽蝶漫漫戯残春。
橋頭婉轉鳥相喚,人影往来魚不驚。
静坐寺門聴祈誦,忽疑此処有神霊。
千(せん)年(ねん)の参道(さんどう) 感(かん)は幽(ゆう)深(しん)にして,
四季(しき) 平(たい)らかに和(やわ)らいで気象(きしょう)新(あら)たなり。
古木(こぼく) 森森(しんしん)と能(よ)く日(ひ)を蔽(おお)い,
軽蝶(けいちょう) 漫漫(まんまん)と戯(たわむ)れて春(はる)を残(のこ)す
橋頭(きょうとう)に婉轉(えんてん)として鳥(とり)相(あ)い喚(よ)び,
人影(じんえい)に往(おう)来(らい)して魚(さかな)驚(おどろ)かず。
寺門(じもん)に静坐(せいざ)して祈誦(きしょう)を聴(き)き,
忽(こつ)として疑(うたが)うらくに此処(ここ)に神霊(しんれい)有(あ)るかと。
訳:
千年の参道 幽深たり,四季は平らかに和らいで気象新たなり。
古木はこんもりとよく日を蔽い,軽く舞う蝶は漫漫と戯れて春を残す
橋のたもとにさえずって鳥は喚びあい,人影の往来にも魚は驚かない。
寺門に静坐して祈りを聴けば,ふとここに神霊が有るかのような感じがする。
上野賞櫻
晴光淑気催新緑,乍到春風猶帯寒。
漫漫花開如雪落,無辺絶景勝桃源。
晴光(せいこう) 淑(しゅっ)気(き) 新緑(しんりょく)を催(もよお)し
乍(たちま)ち到(いた)る春風(しゅんぷう) 猶(な)お寒(かん)を帯(お)ぶ。
漫漫(まんまん)として花(はな)開(ひら)き雪(ゆき)のごとくに落(お)ち,
無辺(むへん)の絶景(ぜっけい) 桃源(とうげん)に勝(まさ)る。
訳:
上野の花見
晴れた光 春の気配 新緑を催すも
たちまち到る春風はなお肌寒し
漫漫として花開き雪のごとくに落ち
かぎりなき絶景は桃源に勝る。